美術の仕事のために行った異国を、
過労のために予定より一週間早く帰国することになりました。
帰る日の前日の夕方、親しくなったKさん夫妻の家に招かれました。
長いことラーマクリシュナを信仰しているインド人夫妻は、
ホームスティで疲れている私に、とても親身になってくれていました。
この国に住むインド人は南インドの人たちで、
この夕方に私がご馳走になったのは、南インドの有名な軽食のドーサでした。
呼び名も、現地(南インド)では“ドーセイ”と言います。
夫妻の家の近くにあるラーマクリシュナのお寺には、ゲストハウスがあるものの
世話をする人がいないため、使うことが出来ないのです。
それゆえに私は、ホームステイをすることになったのでした。
K夫妻の奥さん、Iは以前から私の苦境が見て分かっているかのように
親身になってくれていて、予定ではこの週から夫妻の家に滞在することになっていました。
でも、私の心身は限界に達しようとしていたのです。
ドーセイを食べ終えて紅茶を飲んでいると、
Iが私にホーリーマザーのペンダント・ヘッドを差し出しました。
コルカタの尼僧院の尼僧から貰ったというそれを、
「持って帰りなさい。日本に帰ったら身につけて」と言ってくれたのです。
「またこの国に来なさい、今度はずっと家に泊まればいい」
その優しい心使いに、思わず涙が出ました。
誤解されて悔しかったこと、滞在先で屈辱的な扱いを受けたこと。
でも絶対に泣かなかったのは、
プライドだったのか、泣いたらもう耐えていけないと思ったのか・・・。
乗ったバスが動き出しても、見送ってくれていたIとは
今も時々メールをしています。